手打そば 和 (我孫子)
個性派ご主人の熟成そばが醸し出す“そばもん”ワールド
蕎麦好きってどこか理屈っぽいというかいい意味でも悪い意味でもこだわりが強い(自分も含め)。
ここの蕎麦はなぜうまいのか、ここの蕎麦はなぜまずいのか、とにかくその理由を知りたがる。
でも、ごくまれに、こちらのこだわりの上を行くこだわりを見せる店に遭遇することがあるのだから世の中わからない。
そして、供される蕎麦を前に我々蕎麦食いはただ茫然と立ちすくむことになる...。
この日は夕方から長居のキンチョウスタジアムにサッカーを観に行くことになっていて、近所の良さそうな蕎麦屋はもちろん事前にリサーチ済み。
そこで引っかかったのが、こちらのお店。
決して“ないす”とは言えない店構えだけど…
外観はどこにでもある普通の蕎麦屋。
一歩入ると右手に座敷、通路をはさんで左手にテーブル席。
マンガが置いてあったり、店内を見渡しても何の変哲もないおらが町の蕎麦屋だ。
しかし、ひとたびメニューを開くと、すぐにこの蕎麦屋が只者じゃないということに気づかされる。
手挽き十割蕎麦(太打ち)、手挽きざる(二八・細打ち)はいいとして、問題はメニューの一番下。
熟成蕎麦(十割の2日 木曜日は九一の3日)
その他 十割ひとばんねかせ
二八ひとばんねかせ
を、召し上がっていただける事もあります。
つまり、この店は普通のざるだけで、なんと6種類もの蕎麦があることになる。
こんな店はお目にかかったことがない。
こうなると、朝打ちの蕎麦と熟成蕎麦とで味に違いが出るのか確かめたくなるのが心情というもの。
さすがに全種類食べるわけにはいかなかったので、泣く泣く河内鴨のつけ汁はあきらめて、手挽き十割の朝打ちと熟成2日の十割、そして二八の朝打ちを注文。
これだけでもう3枚なんだけどね。
手挽き十割蕎麦 1050円
手挽き十割の一本5mmはありそうな太打ちそばは超豪快!
蕎麦粉がぎっしり詰まった麺の食感は固め。
産地は信頼と安心のブランド福井県丸岡ということで、さすがに風味はいい。
ただ、ここまで太いと麺を食べるというより、蕎麦粉を味わうという意味合いが強くなってしまうので、評価しづらいところ。
このぐらいじゃないとブツブツ切れてしまうんだろうけど、もう少し細くして麺としても蕎麦としても成立するようにしてもよかったかも。
蕎麦に並々ならぬこだわりを見せる一方、辛汁がおざなりになっている店が多い昨今、この店はその点でも抜かりがない。
ご主人はメジカ(宗田鰹)も使っていると言っていたけど、この辺は本鰹のみでじっくり出汁を取る関東とは違う。
しかし、手挽き極太十割のワイルドさを受け止めるだけの深み、濃厚さは十分。
軽い汁が特徴の「からに」とは真逆だ。
メジカは鰹に比べて血合いが多く味が濃厚らしいが、その分雑味臭みも出るわけで、ここまでバランスよく仕上げるのには相当な努力と研究が必要だったハズ。
蕎麦の食べ方を知らない人が多い関西でこの辛汁を出すのは勇気いったと思う。
辛汁に関しては間違いなく大阪トップクラスの出来。
十割蕎麦(2日寝かせ) 1000円
つづいてキンチョウ(試合会場とかけたわけじゃないけど)の面持ちで運ばれてきたのは、熟成十割。
朝打ちと2日寝かせの違いが果たしていつもエラそうなことをほざいているこの私に分かるのか...
わかる!
僕にもわかるよ!ララァ!
ご主人は栗や芋の風味が加わると言っていたけど、確かにはっきりとわかる。
しかも、朝打ちの蕎麦より甘味も増している。
蕎麦は何日か放置していると赤くなって強烈な臭いを発して食べられなくなるんだけど、その手前といった感じ。
まさかこんな食べ方があったとは…。
蕎麦は本当に奥が深い。
とはいえ、全神経を研ぎ澄まして味わう蕎麦は肩が凝るのも確か。
やっぱり普通に麺としての蕎麦も食べたいじゃな~い。
という人には二八だ。
手挽きざる(二八) 850円
こちらは打って変わって極細。
若干平打ちで、茹で方も悪くないし、フツーにうまい。
十割が衝撃的すぎてこんな感想しか思い浮かばないのが心苦しいけど、少なくとも、ご主人のこだわりをビンビンに感じることは保証します。
こういう正しい方向性のオタク系蕎麦屋がもっと増えて欲しいと心から思う。
結局、今回は鴨汁も食べずじまいだったし、一緒に行った友だちに白い目で見られるのがイヤで、二八の熟成も断念したので、これは追記が必要だな。
そうそう、蕎麦を待つ間、マンガの「そばもん」を読んでたんだけど、20巻も出てるのね。
よくネタがもったな。
★★★★☆
訪問日:2016年12月4日